今回はベーシックインカムについてお話したいと思います。
ベーシックインカムの意味とは?
ベーシックインカム」とは、「最低限所得保障」と呼ばれる制度の一種で、政府がすべての国民に対し、生きていくのに必要な最低限度のお金を、無条件で定期的に支給することを指します。
英語では「Basic Income」と書かれますが、「Basic」は「基本・基準」を、「Income」は、「所得」を意味しています。「BI」と略して呼ばれることもあります。
ベーシックインカムの最も特徴的な点は、支給が「無条件かつすべての国民に対し行われる」というところです。この点を完全に満たしているものを、「ユニバーサルベーシックインカム(UBI)」と呼んで区別する場合もあります。
現在の社会保障制度として、高齢者への年金や低所得者への生活保護など、一定の条件を満たした人への現金支給は行われていますが、ベーシックインカムでは支給に必要な条件などは特にありません。また、受給に際して申請なども求められない点も、ベーシックインカムの特徴の1つとなっています。
注目される理由
ベーシックインカムの考え自体は新しいものではなく、構想の起源は16世紀にまでさかのぼることができます。それが近年になって大きな注目を集めているのには、いくつかの理由があります。1つは新型コロナウイルスの流行で、経済活動が抑えられた結果、自助努力では生活の維持が困難になる人が続出し、政府の補助を求める声が大きくなりました。
メリットとデメリット
ベーシックインカムにどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
貧困と少子化への対策
ベーシックインカムのメリットとしてまず挙げられるのが、「貧困と少子化への対策になる」ということです。
近年は「貧困層の増加」が国際的な問題となっていますが、ベーシックインカムで継続して現金の支給が受けられるようになれば、生活レベルを上げて貧困から抜け出せる世帯も増えるはずです。また、子供も支給対象となることで出産に前向きになる世帯が増えると見込まれますから、少子化対策としての効果も期待できます。
労働環境の改善
ベーシックインカムの2つ目のメリットは、「労働環境を改善できる」という点です。
「ブラック企業」という言葉の定着からも分かるように、近年の日本では、労働環境の悪化が大きな問題となっています。この背景にあるのが、所得の確保のため、劣悪な環境でも我慢して働かなくてはならないという労働者の意識です。しかし、ベーシックインカムで最低限の生活が保障されるようになれば、無理して悪い労働環境に耐える必要はなくなります。企業側としても、労働者に忌避されるのは経営の根幹に関わりますから、労働環境の改善に取り組むところが増えると考えられます。
働き方の多様化
近年は日本でも「働き方改革」が叫ばれるようになっていますが、多くの人にとっては、今の生活の維持のために目いっぱい働かなくてはならないというのが、現実の状況です。
これに対し、最低限の生活を保障するベーシックインカムが導入されれば、より自由な選択が可能となります。無理な残業をする必要もありませんし、子育てや介護などに携わる場合でも、限られた時間での労働がしやすくなります。
犯罪の抑制
犯罪の発生には、貧困が大きく関係していると言われています。もちろん、犯罪の原因は1つでなく、場合によってさまざまですが、貧しさから盗みなどを働くケースは少なくありません。特に青少年の場合は、劣悪な生活環境から非行に走るケースが多くなっています。
これに対し、ベーシックインカムで最低限の生活を保障することにより、生活苦による強盗や、少年非行などの発生率を抑えられると期待されています。
デメリット、労働意欲が低下するおそれ
ベーシックインカムには、労働人口を増加させる効果が期待されていますが、それとは逆に、大勢の労働意欲を低下させかねないというデメリットも指摘されています。なぜならば、無条件で最低限の生活が保障されるということは、働かなくてもとりあえず生活は可能ということになるためです。
経済競争力低下のおそれも
ベーシックインカムの導入で労働者はより条件の良い職場に移りやすくなると述べましたが、企業側としては労働者を呼び込むため、賃金を高く設定する必要が出てきます。人気のない企業ほどそうせざるを得ませんが、そうなれば残る利益は少なくなり、競争力は低下していきます。また、国が財源捻出のために増税に踏み切った結果、企業は利益の確保のために商品やサービスを値上げし、物価の上昇を招いて経済競争力を弱めるという意見もあります。
ベーシックインカムを導入している国
ドイツ
ドイツでは、2020年の8月から、ベーシックインカムの実証実験を開始しています。この実験では、第1フェーズで採用した1,500人の被験者のうち、無作為に選んだ120人に、1人あたま月1,200ユーロ(約15万円)を3年間無条件で支給していきます。ほかの1,380人については、観察された変化が実際にベーシックインカムの影響によるものかどうかを確認するための、比較グループとして扱われます。
支給が開始されるのは2021年の春からで、各参加者は、「雇用」「時間の使用」「消費者の行動」などに関する質問を含むオンラインアンケートに回答することになります。この実験にかかる予算は約520万ユーロ(約6億5千万円)で、資金は民間の寄付によって集められる予定となっています。
フィンランド
フィンランドでは、2017年1月~2018年12月の約2年間にかけて、ベーシックインカムの実証実験が行われました。この実験では、25~58歳の失業者2千人に対し、毎月560ユーロ(約6万6千円)が支給されています。もちろん申請手続きは不要で、受給期間中に仕事が見つかった場合でも、支給は継続されます。これによって、通常の失業給付を受けるグループに対し、ベーシックインカムでどれだけ働く意欲や雇用の増加といった効果が得られるかの検証が行われました。
その結果、参加者にはストレス軽減などポジティブな反応が見られたものの、政府が最も期待した雇用への効果は、思うほど得られなかったという結論が出ています。ただ、就労について積極的に働きかけている参加者も多く、この点はベーシックインカムが労働意欲を削ぐという意見への反証になるとの見方もあります。
スペイン
スペイン政府は、2020年5月29日にベーシックインカムの導入を閣議決定し、6月中旬から申請の受付を開始しています。これは、選挙前から公約に掲げられていた政策ですが、新型コロナウイルス感染拡大による経済へのダメージを受けて、前倒しで承認されました。ただ、これは対象を低所得者に限定していることから、本来的な意味でのベーシックインカムとは違うとする向きが多くなっています。
対象となるのはスペイン全土のうち85万世帯で、1人暮らしの成人には月額462ユーロ(約5万8000円)を保障、家族の場合は、成人・未成年問わず1人あたり139ユーロ(約1万7000円)が追加されます(ただし、上限は月約12万8000円まで)。注目を集めて始まった制度ですが、申請が殺到したため、現在のところ審査は停滞した状況となっています。
アメリカ(カリフォルニア州オークランド市・ストックトン市)
アメリカカリフォルニア州のストックトン市では、2019年2月からベーシックインカムの実験が行われています。これは、市民125人を対象に、24ヵ月間にわたって毎月500ドルを支給するというものです。対象となったのは、「18歳以上のストックトン在住者で、世帯収入が4万6033ドル(約497万円)以下」という条件の中から無作為に選んだ人々で、資金は個人の寄付によって賄われました。
初年度の調査では、支給された額の大部分が食品と日用品に使われたとのことで、アルコールやタバコなどに使われたのは、ほんのわずかの額でした。また、同じカリフォルニア州のオークランド市でも、人種間の貧富差の縮小を目的としたベーシックインカムの導入実験(支給額500ドル)を、2021年夏から1年半にかけて行うと発表しています。
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